
代金を支払うつもりがないのに、飲食店で料理を注文し、これを腹に収めて、逃げ去る。
このような無銭飲食をすれば、当然、詐欺罪が成立しそうですが、場合によっては、詐欺罪が成立しない場合もあります。
(参考)詐欺罪:人を欺いて財物を交付させ、または、財産上不法な利益を得た者は、10年以下の懲役で処罰される(刑法246条)。
どんな時に詐欺罪が成立するの?
詐欺罪は、人が、他人を欺き(①欺罔行為)、それによって相手が勘違いをして(②相手方の錯誤)、この勘違いに基づいて、相手が財物を処分し(③錯誤に基づく処分行為)、処分した財物を人(又は第三者)に移す(④利益の移転)ことで、成立します。
欺罔行為(ぎもうこうい)って何?
欺罔行為とは、簡単に言えば人を欺く行為です。
例えば、代金を支払うつもりがないのに、蕎麦屋で店主に対し一杯のかけそばを注文したとしましょう。
「代金を支払うから、一杯のかけそばを出してくれ。」と嘘をついたわけではありませんが、食べ物を注文すれば代金を支払うのが当然です。
そのため、最初から支払うつもりがないのに、注文すること自体が「支払い意思があるのにないように装って注文した」として欺罔行為に当たります。
食べ終わった後にお金がないことに気付いたら?
もし、かけそばを食べ終わった後に、お金の持ち合わせがないことに気付いた場合はどうでしょうか。
この場合、注文時点では、支払う意思があったので、欺罔行為があったとは言えません。
ただし、代金の支払いを免れようとして、お店に対し「さっき別の人に払ったよ。」と嘘をついて相手を騙した場合は、欺罔行為に当たり、詐欺罪が成立することになります。なお、この場合、厳密にいうと、かけそばを騙し取ったわけではなく、かけそばの代金の支払を免れたことになります。
詐欺罪が成立しない場合とは?
例えば、蕎麦屋で一杯のかけそばを食べた後、持ち合わせがないことに気付いたため、代金を踏み倒そうと思い、店主に対し
「有名作家某が店の外にいる。某は食通で有名だから、店で食事をさせれば、いい宣伝になる。直ぐに行って、引き留めるべきだ。」
と嘘を言い、店主がその場を離れた隙に、代金を支払わずに、店の裏口から逃走したとします。
店主に嘘を言って、代金を支払わずに、逃走を図り、まんまと代金の支払いを免れたのであれば、詐欺罪が成立してもよさそうです。
しかし、店主はその場を離れただけであり、③処分行為をしていません。
処分行為に当たるためには、店主が支払いは不要であることを示す必要があり、店主はその場を離れたに過ぎませんので、処分行為をしたことにはなりません。
それゆえ、詐欺罪が成立しないのです。また、代金の支払債務を免れるという財産上の利益を得ているだけなので(利益窃盗)、窃盗罪も成立しません。
ただし、注文時には持ち合わせがないことを気付いていなかった、という主張(弁解)は、実際にはなかなか通らないでしょう。
以上、様々なケースを検討しましたが、これは刑事責任に関するものであり、いずれのケースでも代金の支払を免れることはできませんのでご注意下さい。