運転中にポケモンGOを操作。人を死亡させても執行猶予?

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スマートフォンとボール


最近、ポケモンGOをしながらクレーン車の運転をしたことでバイクに乗っていた人を轢き、死亡させてしまったという事件の裁判が京都であり、判決は禁錮1年6月・執行猶予5年でした。

執行猶予が5年ということは、すぐに刑務所に行かなくていいし、今後5年間犯罪で処罰されることがなければ、最終的に刑務所に行かなくてもよくなるということです。人を死なせてしまったのに刑務所にも入らないなんて、どうしてこんなに軽い罰なのか理解できないという方も多いのではないでしょうか。

Q:人を死なせてしまった場合に科される罪は?

車を運転していて誤って人を轢いてしまい、不幸にも被害者が亡くなってしまった場合、「自動車運転死傷行為処罰法」(正式には、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」といいます。)という法律により、裁判を経て刑罰が科されることになります。

この法律は、平成26年から施行された新しい法律で、それまで「刑法」という犯罪に関する一般法に規定されていた自動車の運転に関する罪と罰を抜き出した上、これに新しく規定されることになったいくつかの罪と罰を加える形でできたものです。内容としては、主に「危険運転」による行為を処罰する規定と、「過失運転」による行為を処罰する規定に分けられます。

Q:危険運転って何?

前者の「危険運転」については、上記法律に基本となる6つの行為類型が規定されており、それらの行為を行ったことによって、

ⅰ人を負傷させた者は15年以下の懲役
ⅱ死亡させた者は1年以上の有期懲役

が科されることになっています。

この6つの類型を大まかにまとめると、以下のようになります。

1.アルコール又は薬物の影響によって正常な運転が困難な状態で運転すること。
2.進行を制御することが困難な高速度で運転すること。
3.進行を制御する技能を有しないで運転すること。
4.人又は車の運転を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し,その他通行中の人又は車に著しく接近すること。
5.赤信号又はこれに相当する信号を殊更に無視すること。
6.通行禁止道路(道路標識もしくは道路標示等によって自動車の通行が禁止されている道路であって、交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるもの)を進行すること。
なお、4~6については、いずれも当該行為に加えて「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転」していることが条件となります。

「危険運転(致死傷罪)」に大別される新しい規定の例としては、

①アルコールや薬物の影響によって正常な運転に支障が生じる「おそれ」がある状態で車を運転した結果人を死傷させる行為(法定刑の上限は15年)
②車の運転に支障を及ぼすおそれがあるとして政府によって定められている病気の影響によって運転中に人を死傷させる行為(同15年)
③アルコールや薬物の影響によって事故を起こしたことが発覚するのを免れるために、その場を離れてアルコールや薬物の濃度を下げる等の行為(同12年)

があります。

これらの罪、ひいてはこの新しい法律は、

(ア)免許がないのに車の運転を繰り返した結果、あるいは“てんかん”という病気の発作でちゃんと運転できない時があるのにクレーン車を運転した結果、いずれも登校中等だった小学生の列に突っ込んで多数の児童を死亡させるという悲惨な事件や、
(イ)飲酒して事故を起こしても、その場から逃げて時間が経ってしまえばアルコールの影響が立証できなくなる“逃げ得”という事態が相次いだことから、厳罰化を求める世論が強まったことで生まれたものです。

従来の刑法にも「危険運転致死傷罪」(法定刑の上限は20年。新法にそのまま移行。)という規定はありましたが、同罪は正常な運転が困難な状態で車を運転していることを運転者において認識していることを要求している等の理由から、適用するための要件=ハードルが高く、裁判における立証も難しかったのです。その結果、悪質な事件でも同罪を適用できず、遺族や国民の感情に応えられない場合が多々ありました。

厳罰化という意味は、その要件を緩和(正常な運転に支障が生じる「おそれ」を含める等)する形でハードルを下げて、事故の重さに見合った罰を科すことができるようにするため、上記①~③のような罪を新設したり、無免許の場合に法定刑を加重したことを指します(例えば、上記①の場合に無免許だったときには、上限は15年→20年になることが新しく定められました)。

Q:過失運転って何?

「過失運転(致死傷罪)」に当たる行為については、従来の刑法に規定されていた「自動車運転過失致死傷罪」という罪を名前だけ変えてそのまま受け継いでおり、法定刑の上限7年が無免許の場合には10年に引き上げられることになった点を除けば、内容に変わりはありません。

「過失」というのは、法律上は「注意義務違反」という言葉に置き換えられるもので、わかりやすく言うと、何かをする/しないことについて気をつけるべきなのに、不注意にもしなかった/してしまった、ということです。

車を運転するときは、きちんと前方左右に注意して運転しなければいけない義務があるのですが、ポケモンGOなどのゲームをしながら運転したとなると、これは前方左右を注意して運転する義務に違反したことになるわけですから、「過失」があるということになります。

そして、「過失」によって人を死傷させてしまった場合は、あえて人を傷つけたり、殺害しようという意図(これを「故意」があるといいます。)で、実際に人を死傷させてしまった場合と比べて、非難をうけるべき程度が低くなると考えられることから、軽い刑罰が定められています。

たとえば、過失致死罪(刑法210条)は50万円以下の罰金という刑罰しか定められていません。ただし、車の運転は、その行為そのものが、人を死傷させる危険の大きい行為ですし、必要とされる注意義務の程度も重いことから、過失運転致死傷罪は、過失犯のなかでも特に重い刑罰(7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金)が定められています。

しかし、実際には7年の刑罰が科されることはほとんどなく、自動車保険等に加入してきちんと損害賠償が行われることに加え、前科や道路交通法違反(ひき逃げ)等の事情がなければ、車の運転中の過失で人を死亡させてしまった場合でも、だいたい1年~1年8月の禁錮刑・3~5年の執行猶予付きという判決になるのが相場で、刑務所にも入ること(実刑)はあまりありません。

Q:よそ見をしていても、危険運転にならない?

冒頭のポケモンGOをしながら車を運転していて人を死亡させてしまった事件は、とても危険な行為であるにもかかわらず、法律上の「危険運転」の要件には該当しないといえます。そのため、「過失運転致死罪」が適用され、執行猶予付きの判決となってしまったものといえます。

「危険運転」であっても「過失運転」であっても、人が亡くなってしまったことに変わりはありません。
そのようなことにならないためにも、飲酒や薬物の使用はもちろん、ポケモンGOやスマホでの通話をしながらの運転は絶対にしないでください。

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